養育費の強制執行

養育費未払いの強制執行の流れ(給料の2分の1差押え・将来分・ワンストップ手続)

調停・審判・判決・和解で養育費の支払いが決まったのに支払われないとき、裁判所に申し立てる手続きは「履行確保」と「強制執行」の2系統で、どれを使うかは申立てをする側が選びます。強制執行には給料を差し押さえる直接強制と、支払いを促す間接強制があり、養育費には給料の2分の1まで差し押さえられる、まだ期限が来ていない将来分も差し押さえられるといった特例があります。最高裁判所のリーフレット(令和7年10月)で確認した範囲を整理します。

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養育費が払われないときに、どの手続きがあり、どの順で進み、養育費にだけどんな特例があるかを確認します。個別の事案で申立てが通るか、いくら回収できるかは判定しません。申立ての書式や費用は裁判所ごとに案内があるため、養育費の取り決めを作った裁判所か最寄りの裁判所に問い合わせてください。公正証書で取り決めた場合の扱いは、このリーフレットには記載がなく、確認できていません(末尾の未確認事項を参照)。

養育費を取り決める段階は養育費の調停のページ、財産が分からないときに使う情報取得の仕組みは第三者からの情報取得手続のページ、取り決めの費用を自治体が補助する制度は養育費確保支援事業のページで確認できます。

手続きは3種類(どれを使うかは権利者が選ぶ)

リーフレットは、養育費の支払いが調停・審判などで決まったのに相手が払わない場合に使える手続きを「履行確保」と「強制執行」に分け、強制執行には「直接強制」と「間接強制」があると説明しています。いずれも養育費を受け取る側(権利者)の申立てにより裁判所が行い、どれを使うかも権利者が選びます。

養育費が払われないときの手続き(最高裁判所リーフレット令和7年10月で確認)
手続き内容注意点
履行確保裁判所が行う、支払いを確保するための手続きこのリーフレットでは手続きの名称のみ確認できました。家庭裁判所の履行勧告・履行命令は履行勧告・履行命令のページで確認できます。
間接強制払わない相手に、期間内に履行しなければ別に間接強制金を課すと警告する決定を出し、心理的な圧力で自発的な支払いを促す決定が出ても払われない場合、養育費や間接強制金を受け取るには、別に直接強制の手続きが必要です。
直接強制相手の財産(給料など)を差し押さえて回収するどの財産を差し押さえるかを権利者が決めるため、財産の調査が先に必要です。

表は横にスクロールできます。間接強制の申立先の裁判所は、養育費の支払いを定めた調停調書・審判書・判決書などの書面によって異なります。

直接強制の進め方(3つの段階)

  1. 相手の財産を調べる。何を差し押さえるかを決める必要があり、具体的な財産が分からないときは、財産開示手続と第三者からの情報取得手続を使えます。
  2. 申立てを1回にまとめる(ワンストップ執行手続)。これらの手続きと給料に対する債権執行の手続きは、地方裁判所への1回の申立てでできます。財産開示手続や給料に関する情報取得手続を申し立てた場合は、別に給料の差押えを申し立てる必要はありません。ただしワンストップ手続で取得できるのは相手の勤務先の情報だけです(預貯金や不動産の情報の取得もできますが、この手続きの範囲外です)。
  3. 必要な書類をそろえる。調停調書・審判書・判決書などの正本、またはこれらが相手に送達されたことの証明書(送達証明書)が必要で、手数料と郵便切手も要ります。場合によって、確定証明書や執行文(強制執行ができることの証明)も必要です。

財産開示手続は、裁判所が申立てを受けて権利者と相手を呼び出し、相手に財産について陳述させる制度です。第三者からの情報取得手続は、裁判所が市町村などに相手の勤務先などの情報の提供を命じ、得られた情報を権利者に送る制度です。

養育費にだけある2つの特例

養育費の特例(最高裁判所リーフレット令和7年10月で確認)
特例通常養育費の場合
給料の差押えの上限原則として給料の4分の1まで給料の2分の1まで
差押えの対象支払期限が過ぎても払われていない分(未払分)だけ未払分があれば、まだ期限が来ていない将来分も差し押さえられる

将来分は、各支払期限が来た後に受け取ります。リーフレットの例では、7月31日が期限の7月分の養育費は、その前の7月25日に支払われた給料からは受け取れず、後の8月25日に支払われた給料から受け取ることになります。一方、未払分は差し押さえた範囲内でまとめて受け取れます。

  • 使える債権:定期的に期限が来る養育費。養育費のほか、婚姻費用の分担金や扶養料など、親族関係から生じる扶養に関する債権でも使えます。財産分与や慰謝料、親族関係にない人との扶養契約に基づく債権には使えません。
  • 将来分を差し押さえられる財産:給料や家賃収入など、相手が継続的に支払いを受けるお金。預貯金の払戻しや退職金のように1回で支払いが終わるものは対象になりません。

全体の順序

  1. 調停調書・審判書・判決書などの書面と、送達証明書(必要な場合は確定証明書・執行文)を用意する。
  2. 履行確保・間接強制・直接強制のどれを使うかを選ぶ。
  3. 直接強制では、相手の勤務先が分からなければ、ワンストップ執行手続で情報取得と給料の差押えを1回で申し立てる。
  4. 差押えが認められた後は、未払分はまとめて、将来分は各期限の後に受け取る。
養育費の取り決め方と、払われないときにできること
取り決めの形強制執行出典
調停調書・審判書・判決書そのまま申立ての書面にできる(正本、送達証明書などが必要。確定証明書・執行文が要る場合もある)最高裁判所リーフレット(令和7年10月)
公正証書(相手が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されたもの)執行証書として債務名義になる民事執行法22条5号
公正証書(上記の陳述がないもの)・口約束・私的な合意書そのままでは強制執行の債務名義にならない。まず調停などで取り決める民事執行法22条(債務名義の列挙)

未払いから給料の差押えまでの時系列(架空の例)

調停調書がある場合に、未払いから差押え後の受け取りまでを時の流れで並べた表です。日数は事案で変わるため示しません。

調停調書がある場合の、未払いから差押え後の受け取りまでの時系列(最高裁判所リーフレット令和7年10月で確認)
順状況すること
1養育費が払われなくなる調停調書・審判書・判決書などの書面と、送達証明書(必要な場合は確定証明書・執行文)を用意する
2手続きを選ぶ履行確保・間接強制・直接強制のどれを使うかを権利者が選ぶ
3直接強制を選び、勤務先が分からない地方裁判所へワンストップ執行手続を申し立て、情報取得と給料の差押えを1回で行う
4差押えが認められる未払分はまとめて受け取る。将来分は各支払期限の後に受け取る(給料の2分の1まで)

表は横にスクロールできます。回収できる金額と、各段階にかかる期間は判定しません。

養育費の請求権の消滅時効

強制執行や調停を使う前に、請求権そのものが時効で消えていないかを取り決めの形別に確認します。

表は横にスクロールできます。

養育費の請求権の消滅時効を、取り決めの形別に見る(民法・家事事件手続法の条文による)
取り決めの形条文上の扱い確認する点
口約束・強制執行の陳述がない合意書債権の一般の時効(民法第166条第1項)。権利を行使できると知った時から5年、または行使できる時から10年で消滅する。各月の支払期限から数える。いつから5年になるかは事案で変わるため、個別には判定しない。
公正証書民法第169条は「確定判決又は確定判決と同一の効力を有するもの」を対象にしており、公正証書は条文に挙がっていない。このページでは期間を判定しない。公証役場か弁護士に確認する。
調停調書調停で合意が成立し調書に記載されると、確定判決と同一の効力を持つ(家事事件手続法第268条第1項)。確定した分は10年(民法第169条第1項)。確定の時にまだ支払期限が来ていない将来の分には、10年は適用されない(民法第169条第2項)。
確定判決確定した権利の時効期間は10年(民法第169条第1項)。将来の分に10年が適用されない点は、調停調書と同じ(同条第2項)。

よくある質問

公正証書で養育費を決めた場合も、給料の差押えはできますか。

民事執行法22条5号は、金銭の支払を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているものを債務名義(執行証書)としています。この陳述がある公正証書なら強制執行の根拠になります。申立書類の細かな違いはこのページでは確認できていないため、裁判所か公証役場に確認してください。公正証書の条項の例や公証人手数料は離婚の公正証書の条項と公証人手数料のページで確認できます。

口約束や、署名しただけの合意書では差し押さえられませんか。

強制執行は民事執行法22条に列挙された債務名義でしか行えず、口約束や強制執行の陳述がない合意書はそこに含まれません。先に家庭裁判所の調停などで取り決める必要があります。

養育費の給料の差押えは、どこまでできますか。

最高裁判所のリーフレットによると、通常は給料の4分の1までのところ、養育費は2分の1までです。未払分に加え、まだ期限が来ていない将来分も差し押さえられます。

相手の勤務先が分からないときはどうしますか。

財産開示手続と第三者からの情報取得手続を使えます。ワンストップ執行手続なら、情報取得と給料の差押えを地方裁判所への1回の申立てでできます。

履行確保・間接強制・直接強制のどれを選べばよいですか。

どれを使うかは養育費を受け取る側が選びます。どれが適するかは個別の事情によるため、このページでは判定しません。裁判所に問い合わせてください。

Q. 養育費の請求権には時効がありますか。
A. あります。口約束や合意書だけの場合は、民法第166条第1項により、権利を行使できると知った時から5年、または行使できる時から10年で消滅します。調停調書や確定判決で確定した分は10年です。ただし、確定の時にまだ支払期限が来ていない将来の分には、10年は適用されません(民法第169条第2項、確認日2026年10月12日)。

Q. 時効が近い場合は、どこに相談しますか。
A. 時効が完成しているか、止める方法があるかは、個別の事情で変わります。このページでは判定しません。法テラス、家庭裁判所の窓口、弁護士に確認してください。

未確認のまま扱っている事項

  • 公正証書(強制執行を受けることを認める文言のあるもの)で取り決めた場合の申立書類の違いは、このリーフレットに記載がなく、確認できていません。公正証書の場合は第三者からの情報取得手続のページの債務名義の説明も参照し、裁判所か公証役場に確認してください。
  • 履行確保の具体的な手続き内容、申立ての手数料の金額、各手続きにかかる期間は、確認していません。
  • リーフレットは、令和6年の民法改正で法定養育費制度をはじめ養育費の規律が強化されたと案内し、詳細は法務省のサイトを参照するよう示しています。法定養育費の内容は制度変更・公式根拠のページを参照してください。
  • 個別の事案で回収できる金額、申立てが認められるかどうかは判定しません。

公式根拠

最高裁判所「養育費の支払を受けられない方のために」(リーフレット、令和7年10月):裁判所: fc3.pdf(確認日2026年10月8日)。手続きの名称、給料の2分の1までの差押え、将来分の差押え、ワンストップ執行手続、必要書類の記載はこの資料で確認しました。

時効の条文はe-Gov法令検索: 民法(第166条・第169条)、調停調書の効力はe-Gov法令検索: 家事事件手続法(第268条)で確認しました(確認日2026年10月12日)。

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